再生医療のひとつで、炎症や痛みの抑制に働く幹細胞を増殖してから患部に注射し、直接作用させます。自分のお腹の脂肪から採取した幹細胞を利用するため、アレルギーなどの心配も少ない治療法です。
変形性ひざ関節症に対する効果として、炎症からくる痛みと関節機能の改善が認められていて、整形外科領域で近年広がっている治療法です。
ひざ関節症クリニックでは治療後6ヵ月〜1年にわたり、痛みや関節機能が改善されていることを確認していて、日本再生医療学会でも報告しています[1]。
幹細胞の投与は注射器で行えるため、人工関節などの手術のようにひざを切開しないで行うことが可能です。もちろん、治療後すぐに日常生活に戻れます。
現在、再生医療は躍進を遂げ、日々新しい治療への可能性がニュースなどで取りあげられています。
しかし、幹細胞の治療は新しい治療のため、まだ治療例が少なく適応が曖昧であり、効果性に関して科学的に解明されていないことが多く、治療の科学的根拠がありません。
安全性に関しての検証は行ってきており、これまでに当院では、幹細胞の治療を受けられた患者さまに重篤な有害事象等は発生しておりませんので、今回この治療をご紹介しています。
これから説明する内容をご確認いただき、患者さまの自由意思によりどのような治療を選択するかお選びください。
当院でこの治療を受けられている患者さまは、変形性ひざ関節症の進行期〜末期である方が89%を占めています。なかには片ひざの人工関節置換術後、もう手術はしたくないと幹細胞培養上清注入療法を受けられた患者さまもいらっしゃいました。早期治療の方がより高い効果が期待できますが、当グループの症例では、進行期〜末期においても一定の効果が確認されています[2]。
患者さま自身のお腹から20mLの脂肪を採取して、その細胞から幹細胞を分離して培養したものを使用します。幹細胞はごく少量の脂肪でまかなえ、細身の方や高齢の方でも問題ありません。
20mL採取して細胞加工センターに輸送
感染症検査後、無菌環境下で培養すること6週間
クリニックにて関節内に注射します。痛みはほぼなく、治療後もいつもの通りに生活いただけます。投与は点滴による静脈からの投与で行います。投与回数や投与間隔は医師とのカウンセリングにより決定します。
投与する幹細胞数は、4×1,000,000(400万)個/kg 以下の細胞数です。ただし、1回当たりの投与する幹細胞数の上限は2億個となります。
脂肪の採取と言っても、注射器のような器具で吸い取るので、大きな傷や出血はありません。施術時間も10分ほどです。そうは言ってもご不安かと思いますので、看護師が常に近くで付き添い、医師も次に何を行うかきちんとお声がけして、リラックスできるよう努めております。
幹細胞には、炎症を抑える作用や、鎮痛を促す物質を産生する作用が報告されています[3][4]。ただ痛みが軽減されるだけでなく、痛みの原因を治療できるというわけです。また一方で軟骨を保護するという報告も見られ[5]、この作用も変形性ひざ関節症の症状改善や病態の進行抑制へと有意に働いているのではないかと考えられています。実際、幹細胞培養上清注入療法の関節内注射で、痛みや関節機能を数値化したスコアに改善が見られたという結果も、国際的な医学誌に掲載されています[6]。
幹細胞培養上清注入療法で軟骨が再生されたという有意な結果は、残念ながらまだ得られていません。ただ、それを期待させる報告は散見されます。例えば、幹細胞の抗炎症作用より組織修復作用の方が、炎症の抑制に関係しているかもしれないことを示唆する結果[7]がひとつ。また、軟骨改善スコアが良くなったマウス実験[3]や、ヒトの治療ではごく数例ですが、MRI画像のように軟骨の厚みが増していた例[6]の報告もあり、可能性の広がりを感じます。
[1] ∧
大鶴任彦 自由診療として行う膝関節領域再生医療の現状と課題 第18回日本再生医療学会総会(シンポジウム)2019
[2] ∧Naomasa Yokota, et al. Clinical results following intra-articular injection of adipose-derived stromal
vascular fraction cells in patients with osteoarthritis of the knee. Regenerative Therapy.
2017;volume6:108-112
[3] ∧M. ter Huurne, et al. Antiinflammatory and Chondroprotective Effects of Intraarticular Injection of
Adipose-Derived Stem Cells in Experimental Osteoarthritis. Arthritis and Rheumatism, vol.64, no.11,
pp.3604–3613,
2012.
[4] ∧Jo CH, et al. Intra-articular Injection of Mesenchymal Stem Cells for the Treatment of Osteoarthritis
of the
Knee: A 2-Year Follow-up Study. Am J Sports Med ;45(12):2774-2783. 2017.
[5] ∧M. Maumus et al. Adipose mesenchymal stem cells protect chondrocytes from degeneration associated with
osteoarthritis. Stem Cell Research 2013 Sep; 11(2):834-44.
[6] ∧Pers YM, et al. Adipose Mesenchymal Stromal Cell-Based Therapy for Severe Osteoarthritis of the Knee: A
Phase
I Dose-Escalation Trial. Stem Cells Trans Med 5: 847-56. 2016.
[7] ∧田中良哉ほか. 間葉系幹細胞を用いた炎症性関節炎の治療と再生. Jpn. J. Clin. Immunol., 38 (2) 86~92. 2015
[8] ∧
横田直正 脂肪由来培養幹細胞(ASC)と非培養間質血管細胞群(SVF)の膝関節腔内注入療法の臨床比較研究 第17回日本再生医療学会総会(シンポジウム)2018
幹細胞の投与時 幹細胞の投与により発現する可能性のある合併症、副作用は次のとおりです。
・頭痛: 3(8.1%)
・倦怠感: 2(5.4%)
・浮腫(全身,局所): 2(5.4%)
・臀部熱感: 1(2.7%)
・発疹: 1(2.7%)
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